古池直之著

発行日 1996年5月21日
定 価 1500円(消費税込)
P D  岡次博幸
182×170ミリ オールカラー48ページ

(現在再版の予定はございません)



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<著者略歴>
古池 直之(こいけ なおゆき)
1960年 愛知県名古屋市生まれ
1982年 日本大学理工学部土木工学科卒業
1992年 鉄道ファン第16回鉄道写真コンクール入選
現在、土木設計に従事。
<連絡先>
〒460 名古屋市中区大須3-38-42
<写真集解説>
「名古屋鉄道 瀬戸線」は、名古屋の都心「栄町」と瀬戸物の町「尾張瀬戸」を結ぶ全長20.4kmの路線であるとともに、地元の人々には、明治39年電化当時の社名「瀬戸電気鉄道」に由来する「瀬戸電」という愛称で、今も親しまれている。
 30年程前まで「瀬戸電」には、名古屋城のお堀の中を走る区間があったことをご存じだろうか。2両編成の白帯を巻いた赤い特急が駆け抜けていく姿を、懐かしく思い出される方もおられるに違いない。その後この“お堀区間”が廃止され、都心部地下への乗入れを開始した頃が、この瀬戸電にとってひとつの転機だった。沿線の急速な宅地化に伴い、瀬戸電は名古屋都心部への通勤の足としてめざましい飛躍を遂げたのである。
そしてこの瀬戸電に今、静かなもうひとつの転機が訪れようとしている。
 ここで働く3780形電車は、名古屋鉄道最後の*HL車。行先表示板、列車種別板を前面に掲げ、日車D型台車を揺らし、釣り掛けモーターを唸らせての力走は、誇らしく貫禄さえも感じさせてくれる。ところが平成8年6月、三河線や築港線につづき、いよいよここ瀬戸線にも本線系からの高性能通勤形車両6000形が編入され、3780形全てが淘汰されることになった。
 昭和53年瀬戸線の1500V昇圧を契機に、全10編成20両が本線系から編入された3780形。主として急行・準急運用に就き、18年間、黙々と瀬戸電として走り続けてきた。しかし、当初から装備していた冷房が瀬戸電の冷房化率 100%達成に貢献したものの、ドアの少なさが災いし、年々増加する朝夕ラッシュ時の利用客にとって、この車両の評判が必ずしも良くないことは否めなかった。
 けれども、晴れた休日の午後、名前どおりのロングシートに腰掛け、窓から差し込む暖かな日差しとモーターの唸り、窓ガラスのビビリに包まれながら、いつの間にか、うとうとした経験を持つ方もおられるだろう。少なくとも私には、旅情と呼ぶには短すぎるけれども、ささやかなやすらぎの空間だった。
 激しい時代の流れの中、ふと足を止めて周りを見回してみると、少し前ならば何処にでもいたような車両たちが、静かにそして確実に、その姿を消していることに驚かされる。HL車の釣り掛けモーターの唸り声が、我家の寝室へ届かなくなる日も、もうすぐそこまで来ている。 (1996.5 記)
*HL:Handly operation Line system<手動加速架線電源方式>の略で、米国ウエスチングハウス社製制御器の分類名。普通の電車では機械が自動的に進段制御するところを、文字通り運転士が手動で進段するという今では珍しい方式。


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