Rail Graphic Gallery Vol.7

写真集

Far Whistles〜遙かなる汽笛〜

小林弘雄/宮地啓介/和田浩 共著


発行日 1998年12月1日

定価:3800円(税別)

P D  岡次宏幸

190×257ミリ オールカラー128ページ ハードカバー

世界各国の美しい光景をゆく現役・保存SLの勇姿を

10年にも及ぶ撮影でまとめあげた世界の蒸気機関車の写真集。永久保存版。

全編和文・英文併記

(Written in Japanese and English)

ISBN4-938951-62-2



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<著者はしがきより>

始まりは中国だった。今、思い返しても、何故そこへ行こうとしたのか、明確な動機が思い出せない。流行になりつつあった「卒業旅行」という感覚だったのか。とにかく、僕たちは何もわからないまま、上海の空港に降り立っていた。外へ出ると、そこは中国なのだから当然だが、中国人がたくさんいた。目に入るものすべてが新鮮で、それは裏を返せば何もわかっていないという状況の日本人は、間違いなく格好の獲物に見えたであろう。程なく、2人連れの若い中国人が声を掛けてきた。英語を用いて会話をするのも初めてだったが、意志の疎通はできた。話をしているうち、4人でタクシーに乗って市内に向かうことになった。彼らは大学生で日本に留学するためにお金を貯めているといった。当初の予定であった夜行列車の切符を購入するまで、僕たちは終始彼ら2人のペースで、異常に高い夕食を摂り、思い切って切り捨てられたレートで両替を済まされていた。それでも到着して半日後には、夜行列車で上海の街を後にすることができていた。

列車はひたすらに走り、2泊3日の旅の後、西北地方の大きな都市に着いた。その頃には、ようやく僕たちも落ち着いて、旅を楽しめる状況にあった。駅を出て、泊まるところを確保してから、散歩がてら再び駅へと向かった。工場からの煤煙のためか霞んだもやのような空気の中、太陽が西に傾いていた。駅のはずれから築堤をよじ登って、線路の上まで出てみた。駅にはたくさんのホームがあって、たくさんの人がたくさんの荷物を持って列車を待っている。長い編成の列車は満員で、ちょうどこの駅で機関車の交換を行うようだった。物売りに人々が集まり、長い距離を走る列車の乗客がひとやすみしているようだった。

その時だった。交代の機関車が後ろ向きに重連で客車に近づいてきた。大きな鉄のかたまりの黒い機関車は間違いなく蒸気機関車だった。ゆっくりと満員の長い客車に連結されると、すぐに出発の準備にかかった。煙が上がり、この先の峠に向けて力強く進み始める。僕たちの目の前を通りすぎる時、カメラを手にした僕たちに機関士が手を振っていく。

僕たちは見た。見てしまった。間に合ったのだ。すべてはここから始まった。1990年3月のことだった。

旅は続いた。今、この瞬間にもそこに行けば蒸気機関車のいる風景が展開されている。日本とは全く異なる時間が流れ、人々の生活がある世界。日本での日常との距離感はとても遠く、それをたった数時間のフライトで埋めるのは困難かもしれなかった。だからこそ、訪れる回数でそれを埋めようと試みた。そして、そのたびに新しい発見をしたのだ。

旅は今でも続いている。僕たちは間違いなく蒸気機関車と、その存在をとりまく世界が好きになってしまっている。夢であり、そして幻でしかなかった風景に近づく旅は続く。遙かな汽笛を確かめるために。




<ここに掲載されている写真は写真集“Far Whistles”からの一部抜粋です>
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